駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
名は確か夕月と言っていた。
永倉が惜しげなく通い続け口説き落としたとも言っていた。
そんなに素敵な女性なのだろうか、と辺りにいる町娘達を見回してみる。
「永倉さん、今日は夕餉食べますか?」
出掛けたついでに、あと少しで切れそうな味噌を買って帰りたい。
もうすぐ夕焼けに町が染まっていくからだろうか、なんだか切なくなる。
「あ〜、いいわ。 今日は出かける」
「今日もでしょう」
何もかも見透かしているといった目を永倉に向け、にっと笑みを浮かべると、永倉は気まずそうに苦笑いした。
やはりそうだ。 永倉は、今日も夕月のところへ行く。
「じゃあ、私此処からは一人で帰ります」
「あ? いや屯所まで送るぞ。 急いでるわけじゃねぇしよ」
「ああ、でも……」
よそよそしく目を反らす矢央に、ようやく永倉も違和感を感じはじめた。
「お前どうし――」
「おっ! 新八さんに、矢央ちゃんじゃん!!」
「平助?」
前方から巡察中の藤堂が、二人に気付き手を振りながら走りよってくる。
「平助さん!!」
「あっ、おい―…」
同じく藤堂に気付いた矢央も、永倉から離れるようにして藤堂の元へ駆けていく。
永倉は伸ばしていた手の行く場を無くし、虚しく空気を掴むだけ。
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