駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
其の参
第一話*坂本龍馬、再び
***
新撰組は特に大きな事件もなく八月を迎えた。
蝉の鳴き声と、青空にでかでかと浮かぶ入道雲は矢央の生きていた時代となんら変わらない。
「えっ…一人で外出禁止?」
団扇が腕からぽたりと落ちた。
話があると土方に呼ばれた矢央は、一体何に対してお叱りを受けるのかとはらはらドキドキだったのだが、話しの内容は全く違うもののようで。
「近藤さんとも話し合った結果だ。 勘違いすんじゃねぇぞ? 以前みてぇにお前の自由を奪うもんじゃねぇ」
だったら何のための拘束なのだ?
首を傾げる矢央を見かねて、近藤が優しく問いかけた。
「矢央君、君は最近…その…武田君に絡まれているようじゃないか」
「ああ…。 たまに、ですけど?」
それが何か(?)と、今度は眉間の皺を寄せた。
永倉に助けられて暫くは武田も矢央に関わってくることなく平穏に日々は過ぎたが、それも長くは続かず
一週間も経った頃から、ことあることに矢央に絡んでくるようになった。
「永倉や斎藤、藤堂からもお前を心配する声を聞いている」
「その、だね。 武田君は君を男子だと思っているんだ。 そして彼は男色なものでね」
「つまりは、万が一のことがあってお前の正体が知られては困るんだよ。 今は伊東のこともあって、内部でゴタゴタは極力避けたい」
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