駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
きっともう帰ることのない自分の故郷を思い出し、ほんの少しだが切なくなった。
でも此処にいることを決めたのは己自身なので、直ぐに元気を取り戻す。
「江戸ですか。 ならば、落ち着いたら一度行ってみるといい」
「そうですね」
この時代、いつ落ち着くのかは誰にも分からないが、行ける機会があったら行ってみたい場所は沢山ある。
考えてみれば、京都や大阪以外旅に出たことがない。
「今度、江戸行きがあれば頼んでみます」
多分あの土方は許してくれないだろうが、希望は捨てなければいつか叶うかもしれないと、前向きに考えるのであった。
「さて…それでは、私は仕事を片付けようと思うのですが」
「あっ! お邪魔しちゃってごめんなさい! じゃあ、私はそろそろおいとましま〜す」
気づけば昼過ぎ、大分話し込んでいたようだ。
矢央は二人分の湯呑みを持って、仕事をすると言った山南の部屋を去った。
湯呑みを勝手場に持っていた後、またしても暇な時間がやってくる。
稽古をするにも、相手がいないとやる気が出ないし、矢央は見廻りといった任務も与えられていない。
「土方さんは、何だかピリピリしてるし。 永倉さんは、謹慎中だから駄目って土方さんに怒られたし……となると」
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