駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

***


「熊木が脱走? それは誠か?」


ある日の夜更け、広間に集められた数名は一人の隊士の脱走を知った。

名は、熊木太助。 武田の隊の者である。


「ああ、武田さんが今朝焦りながら俺のところへ来た。 山崎君に調べさせてはいるが、それより……」


武田は己が管理する隊から脱走者が出てしまい、更に近藤からの信頼度が下がるのではと焦ったのだろう。


熊木の姿を見なくなったのは三日前からだと分かっていながら、何かの間違いかもしれないと己の部下を使い内密に捜していたらしい

しかし、三日経てども熊木の消息はつかめず、さすがにどうしようもないと判断し土方に知らせに来たという流れを話した。


「熊木は、長州の間者だった」


一斉に場の空気が重くなった。
斎藤に関しては、あまり驚いた感じは見せていないのは、予想範囲内だったからであろう。


「やはりそうでしたか。 熊木は、少し長州弁の訛りがあったので、もしやとは思ってはいたが」

「それで土方さん、話しはそんだけじゃねぇんだろ?」


間者が脱走など今に始まった珍しくもない話しで、わざわざ人が眠りについた夜更けに集まりする話しとは思えない。

しかし、揃えられた面子の中に武田がいないのも可笑しな話しだ、武田の隊から脱走者が出たというのに……。


永倉は、だいたい予想がついていると言った表情で土方を見つめた。


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