駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
いつもは暗い町にいくつもの明かり灯り、静まる夜に太鼓や笛、人々の賑やかな声が祭を盛り上げている。
沖田の計らいで、永倉、原田、藤堂をお供に連れ祭に参加することになった矢央は興奮のあまり勢いよく飛び出そうとしてつまずいた。
「あいたっ…!」
「だああっ! やると思った」
予想していた展開通りに躓く矢央を片腕で支えた永倉は苦笑いしつつも、微笑ましげに彼女を見つめる。
「矢央、せっかく綺麗に着た着物が台無しになるぞ」
「…ううっ。 だって、着慣れなくて歩きにくい…」
「でも、久しぶりの祭だからって、着物を用意するなんて新八さん優しいじゃん?」
体制を整えた矢央の装いは珍しく女物。
桃色の着物に赤い帯、少し伸びた髪を器用に結い小さな桜の髪飾りをつけ、どこからどう見ても可愛らしい女子だった。
「三人もいれば大丈夫だとは思うが、念には念をでだな。
普段男装してるから、こっちの格好のがばれにくいかと思ってよ」
沖田と別れた後、四人は呉服屋へと向かい、入って早々
「こいつに似合う着物を見立ててやってくれ」
と、その場で着付けまですませていた。
着慣れないものに若干苦戦しつつも、やはり矢央も年頃の女の子。
「永倉さん」
「ん?」
「…ありがとう」
素直に嬉しさを表した。
「…いいさ。 まぁ、毎日屯所の雑用を頑張ってる褒美だ」
久しぶりに二人の間に和やかな空気が流れる。
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