駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「とにかくだ、用心にこしたことはねぇってことだ。
矢央の場合、内にも外にも危険があるんだからよ」
矢央を励ます二人とは違い、永倉だけは冷静だ。
面倒見がいいだけあり、こういったことにも人一倍慎重になるのも永倉らしい。
「でもさ、そうやって構えてても動きがない以上どうしようも…」
「確かに平助の言う通りだぜ」
自分の話をされているのに、どうにも集中できない。
暫くは新撰組のことで慌ただしい毎日だったせいか、歴史上には決して存在しない矢央にお華の時のような、直接己が関わる事件が起こるとは思えないからだ。
「…狙いは、本当に私なんですかね?」
三人の視線が痛い。
一つ咳を払い、疑問を口にした。
「お華さんが私を狙った理由は、納得いくものがあったけど、長州の人や熊木さんと私の接点はなにがあるんです?」
もっともだった。
矢央らしくない問に、一番驚いたのは永倉で、
「熱でもあんのか?」
「ありません」
即答に最早苦笑いである。
「だとしたら…」
もしかすれば、矢央が未来の人間だと知っているのか。
或いは治癒能力があること、それ以外のこととすれば・・・。
「お華さんから貰った、赤石?」
男たちも同意見なのか頷きあった。
「そうだとすると、またややこしくねぇか?」
「だよね。赤石だとしたら、相手はお華ちゃんのことも何かしら知っているってことか」
六畳程の部屋を重い沈黙が支配する。
せっかくの息抜きにと祭を楽しんでいたのに、永倉の悪気ない質問のせいで変な空気になってしまった。
「ああ~っ!悪い、この話は一先ず保留にしよう」
「だ、だな!俺らだけで話てても埒あかねぇしよ!」
永倉と原田は、また酒を飲むことを再開