駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


夜も更けはじめ祭も終わり、矢央は屯所に向かって歩いていた。

空は夏の星座がはっきりと輝き、月明かりと共に帰り道を照らしてくれる。


「もうすぐ秋だね」


夜風に僅かに混ざる秋の香りに、藤堂は目を細める。


「うん。秋がきて、あっという間に冬がくるね」

「秋になったら、また焼き芋焼いて食べよう? 去年と変わらずさ」

「うん」


永倉が気を利かせたのか、原田と二人かなり足早に先を行く。


はあ、わざとらし。
 とは思いながらも、絶好の機会とばかりに矢央の横顔を見た。


いつもと違う女子の姿をした彼女に、そわそわと落ち着かなくなる。


いつかばっさり切ってしまった長く黄金色した髪も、月日が経ち茶色くなり僅かに肩にかかる程まで伸びている。

そのせいか幼く見えるが、

「矢央ちゃん、いくつになったんだっけ?」

「えっと、十八ですね」


十五の時にこの時代にやってきた、あれから長い月日が経ち。


普通なら高校を卒業する年か、と、思いにふける。


「そっか~っ! 大人になったね」


藤堂が初めて矢央に会った時は、置かれた状況が分からず常に不安そうにしていた少女。
 一つ一つ問題を解決してきながら、少しずつ成長していった。

そんな矢央は、今では女を隠すのが難しくなりつつある。


「矢央ちゃんはさ、普通の女子として生きたいとは思はない?」

「ふふ。突然どうしたの?」

「いや、普通にさ…恋をして、家庭を持って子供を産んで…てさ」


苦笑いを浮かべる藤堂は、きっと我ながらあからさまな質問だなと照れているようだ。


頭一つ分高い藤堂を見上げ、表情を曇らせた矢央。




「平助さんは、私にそうゆう女になってほしいですか?」



< 256 / 640 >

この作品をシェア

pagetop