駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「ふふっ。 やっと笑ってくれた」
「え?」
藤堂はこのところずっと表情を強ばらせているのを、遠目からでも矢央は気付いていて気になっていた。
山南のことがあってからというもの、藤堂のお茶らけて和やかな雰囲気はなくなり、いつも何処か心此処に有らずで。
その上、いつも自分の心配ばかりしてくれる藤堂が気になって仕方ない。
「平助さんは、笑ってくれてる方がいいです」
「……ごめん、な。 気を使わせてるよね」
湯呑みに手を出して、一口口に含むと少しの苦味が口内に広がった。
まだまだ生温い風が、縁側に座る二人の髪を優しく撫でる。
「矢央ちゃんは、あんなことがあったのに…なんで笑ってんの?」
何処か冷めていた。
自分が守りたいはずの彼女の笑顔を見るのが無性に辛いのだ。
「笑うしかないじゃないですか。 泣いたって現実は変わらない。 笑ってたって変わるわけじゃないけど、少なくとも気持ちは前向きになれますよ」
「そう、かな…」
矢央の言う通り泣いても笑っても怒っても、現実は決して変わらないだろう。
それでも彼女のように、前向きに頑張るために笑い続けるなんて、とても出来ない。
「僕は君の笑顔に何度も救われたけど、実際に君が窮地に立った時結局なにもできなかった。
男として情けいないよ……。
この手で確実に守りたいものがあるのに、僕の前から少しずつ全てが消えていく」
「平助さん、あたし前にも言いましたけど、ただ守られるだけのお荷物にはなりたくないんです。 確かに皆より弱いし、皆の力を借りてばっかりだけど、それでもあたしはあたしなりに強くありたい」
矢央の瞳は真っ直ぐ青空を見つめていた。
揺らぐことはなく、透き通った瞳はただ前を見ている。
「……っ! 平助さんっ?」