駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
急に視界いっぱいに入った藤堂。
気付けばグイっと身体を引き寄せられ、藤堂に抱き締められている。
最近はやたら抱き締められているな、と、ふと思いながら大人しく藤堂の腕の中に収まっていると。
「守らせてよ…。 僕にはもう、矢央ちゃんしかいないんだ」
泣いているのかと思う程に弱々しい声が耳元で囁かれる。
「これ以上、強くならないで…僕がいなくてもいい女の子にならないでよっ」
背中に回された手がギュッと矢央の服を掴む。
「平助さん……あたしは、平助さんが必要ですよ。 まるでいなくなるみたいに言わないでください…よ」
確かに其処に温もりがあるはずなのに、藤堂が此処にはいないようで不安になる。
藤堂の存在を確かめるように、お日様の薫りがする藤堂の胸に顔を埋めた。
矢央の細い身体を必死に抱き締めながらも、藤堂が見ていたのは一体なんだったのか。
「このまま矢央ちゃんを拐ったら、絶対怒られるんだろうなぁ」
「え?」
緊張した声でなく、譫言なように呟かれた言葉に顔を上げる。