駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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「なあ、新八」
久しぶりに酒を飲もうと原田に誘われやって来た、原田行き付けの酒場。
歳も一つしか違わないし、何かと話の合う原田といると心地よかった。
ーーー久しぶりに旨い酒だな。
「なんだ、左之」
声のする方を見やれば、いつになく真剣な眼がこちらを見ていて、思い当たる事はないが勝手に身体が緊張する。
「お前も少しは落ち着けよ」
「ああ?」
思わず出た間抜けな声に、原田はククッと喉を鳴らす。
「あの、誰だっけ? 夕月だっけ。 別れたんだってな」
ーーーなんで知ってんだよ。
「んで、次は誰だ。 なんか若ぇの眼かけてるらしいじゃねぇか?」
面倒な話は嫌いだと、串に刺さった鳥をかぶっと一気に食らい付く。
ムシャムシャと噛んでいると、焦げたタレの味が絶妙で少し気分が上がった。
「んで、その若ぇのが誰かに似てるらしいな?」
ジロッと原田を睨むと、ニヤリと意味ありげに眼が語っている。
酒が不味くなりそうな予感に、永倉は眉を寄せた。
「何が言いたいのかさっぱりだな」
「俺はお前の行動がさっぱりわかんねぇがな。放っておけねぇくせに突き放して、かと思えば似たような女捕まえては手放して。 新八、お前何がしてぇんだよ」
ーーー何がしたい?
コトンと、お猪口を机に起き頬杖をついて瞼を閉じる。
「……んなこと、俺にも分からん」
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つい先日の出来事を思いだし、大きく息を吐くと一気に白い息が顔を包む。
今日は厄日かもしれないと頭をかき、永倉は前方を見つめた。
「茂ちゃん、ほら雪だよ! 冷たいねぇ」
小さな原田の子を抱上げて、一生懸命雪を掴もうとする茂の小さな手を優しく包み込みはあと息を吹き掛けている姿に目を細める。
厄日だと思っているのに、さっきよりは心が晴れている己に苦笑い。
ああしていれば血の気の多い男たちに囲まれているようには到底見えない姿に、永倉は言いようのない想いにかられた。
普通の女として生きているならば、違った幸せがあっただろうに。
「俺はどうしたい…か」
そんなこと分かっていても、どうすることも出来ない歯痒さを胸に秘め永倉は静かにその場を去った。