駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
藤堂は我が目を疑った。
矢央を見失い、町人に男を追う隊士を見なかったかと尋ねながら、ようやく矢央がいる場所に辿り着くと、そこにいたのは憎き男と血濡れた矢央とその前で血溜まりに倒れた男。
ゆっくりと視線を下げ、矢央を見ると放心状態の矢央の手は赤く染まっていて、座り込んだ足の上に落ちていたのはいつか山南が護身用にと渡していた脇差し。
「矢央ちゃん、斬ったのか?」
そう尋ねると細い肩がビクッた揺れた。
藤堂を映した瞳は歪み、力なくゆるゆると首を振った。
「そうだよね…」
「いいえ、彼女が殺したんですよ」
「熊木、冗談はよせ。 矢央ちゃんは人を斬ったりしないし斬らせない」
「冗談は嫌いなんですよ。 確かに彼女が斬った。但しそこに自身の意志はなし」
どういう意味か分からず、もう一度矢央を見ると唇を噛み締めポロポロと大粒の涙を流している彼女がいた。
それを見て、熊木は嘘を言っていないんだと分かってしまった藤堂は息が止まりそうだった。
「彼女壊れてしまうかもしれないですね」
「っ、熊木っっっ!!」
一気に刀を抜き、背後にいた熊木を狙って払ったが熊木は既にいなかった。
刀は虚しく風を斬っただけ。
何の重みもない、ただの風。
「どうせ斬るなら、僕を斬れば良かったのにっ……」
どうか。 どうか壊れないでと願うだけ。