駆け抜けた少女ー二幕ー【完】



八番隊が屯所に戻ったのは夕刻過ぎてからだった。

先に数人の隊士が戻り土方に矢央が浪士を追って消えたこと、その二人を藤堂が捜していることは伝えられている。


そして藤堂が気を失った矢央を抱き上げ連れ帰った頃には、もうすっかり日も暮れていた。



「平助、矢央は大丈夫なのか?」


門の前で待っていた永倉は、藤堂の腕の中で眉間に皺を寄せ眠っている矢央を覗き込む。


血に染まった隊服は藤堂が脱がせたのか、着ている着物には僅な血のあとのみで、顔についた血も運ぶ前に藤堂が拭った。



「足を斬られたみたい。 山崎さんはいる?」

「ああ」

「間島っ!?」

「ほら来た」


藤堂が戻ったことを気配で分かったらしい山崎は慌てて門まで走ってくる様子が見える。


このままでは突っ込んできそうだと思った永倉は、さっと山崎を避けた。


「んー、見た感じは深くなさそうやな。 よし、藤堂さん預かりますわ」

「え?」


両手を差し出した山崎に、藤堂は一歩後ずさる。


その行動に山崎は目を細めた。


「早よう手当てせなあかんのです。 仲間に対してなに警戒してねん」

「いや、そう言うわけじゃないけど…」


手放したくない。
と、顔にそう書いている。

永倉と山崎は同時に溜め息をついた。


「言うたら悪いけど、今回のことは藤堂さんにも非があるんとちゃいますか? 副長が状況確認したがってます。 一隊を纏める人間として、今すべきことはなんなんでしょうか」


「うっ」

「山崎、そこまで言ってやんなよ。 ほら平助も、矢央は山崎に任せて土方さんとこ行くぞ」

「…わかった」


仕方なく納得した藤堂は山崎に矢央を預け副長室へと向かった。


その後ろ姿を見送りながら山崎は小さく息を吐いた。


「お前、傷付いてばっかやな。 ほんま目が放せんわ」


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