駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


「…っっ」


今の発言は本当に近藤のものだったのか。


矢央を娘のように可愛がっていた近藤が、矢央を危険に晒さないために出来るだけ戦地で最前線で戦わなくて済むようにと救護隊を作ったのに。

その近藤が自ら、矢央を最前線で戦わせようと言っているのかと、沖田は動揺を隠せなかった。



ーーー駄目ですよ。 そんなことあってはならない。 だって、だって彼女は……。




「それ本気で言ってるのか?」


永倉の低い声色に、ハッと我にかえった沖田は永倉を見ると目を見開いた。


今までに彼がこんなにも冷たく鋭い視線を近藤に向けたことがあっただろうか。


幾度となく近藤とぶつかった永倉でも、心の奥底では近藤を尊敬し慕っている。
だからこそ、反発も人一倍なのかもしれない。



「ああ本気だとも。 隊士の数も足りとらんし、彼女ならそれなりに頑張ってくれると期待もしている」


「それなり? 期待? はっ、一体なんのだよ」


呆れてものも言えない。
近藤が何を考えているの分からないのは最近に始まったことではないにしろ、そろそろ着いて行く相手を考え直すべきかと本気で思いそうだった。



「しかしあくまでも俺の考えにすぎないよ。 最終判断は彼女自身に決めてもらおう」



その言葉にほっとしたのは沖田と、意外にも土方だったりする。


この場にはいない斎藤や原田も、きっと永倉や土方たちどちらかと同じ反応を示しただろう。

そしてそのどちらも、近藤の提案を肯定できずに、しかし局長である近藤の意見を無視することもできやしない。


斎藤ならばただ黙って事のなり行きを見守っていただろうから良しとして、原田はいなくて良かったと土方は思う。


永倉は気性は荒いが頭が良い分しっかり周りを見ているが、原田は突進型なのできっと永倉よりも酷い反応を示したことだろう。



「納得はいかねぇが。 まあ、矢央に決めさせるっつうなら、とりあえず分かったよ」


「そうか。 ならば解散としよう。 熊木の正体も目的も分からぬ今は話し合ったところで無駄というもの。 矢央君が目覚め次第、また話し合えばいいだろう」


険悪ムードのまま、次々に部屋を後にした。

そして真っ先に部屋を飛び出した藤堂を、ある男が待ち受ける。


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