駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
また矢央になにかあったのだと、伊藤は直ぐに察した。
そしてその原因も何となく分かっている。
何故なら此処まで面白い程にある男の思惑通りなのだから。
ーーーさて、私も最終目的を果たしますかね。
「藤堂君、間島さんは大丈夫だったのかな?」
心配なんてしていない。
生きているのは分かっている。
わざと眉根を寄せて不安顔で近寄れば、藤堂は伊藤に対して心を隠さない。
「伊藤さん。 僕はっ…」
「その顔は、あまり状況はよくないんだね」
苦痛に顔を歪める藤堂の肩をそっと撫でる。
「近藤さんが、矢央ち…彼を救護隊じゃなくて普通の隊士として扱うって。 まあ、まだ決定ではないんですけど、もしそうなったら、また傷付くんじゃないかってっ」
「…それは酷い話だ。 間島さん、女性が刀を持つのは男が想像するより酷と言えよう」
「……え? 今のは、えっと、え?」
あれ?と疑問が浮かぶ。
伊藤に矢央が女であることは隠していたはずなのに、今確かに彼女と言った。
「ああ、彼女が女であることくらい分かってましたよ。 あんなに可愛い男はいないでしょ? 隠せてるつもりなとこが、また可愛いですね。
そんなことよりも、それが事実ならば私も考えないわけにはいかない」
知っていて知らないふりをしていたのかと藤堂は伊藤の観察力に驚きつつ、そういった頭の切れるとこも彼を尊敬する一つだったと思い出す。
そして伊藤ならば、こういう場合どう切り抜けるかと聞かずにいられない。
「あの伊藤さん、矢央ちゃんを守るにはどうすればいいんでしょうか?」
瞬時に伊藤の目許が緩む。
さっと扇子を取りだし、笑みの浮かぶ口許を隠す。
ーーーその言葉、待っていましたよ。
「その事についてなんですが。 以前話したこと覚えてますか?」
「あの、それは……」
"今新しい組織を作ろうと考えているのですが、是非藤堂君の力を貸してほしいんです"
「あれから話は進みましてね、近いうち近藤さんに正式にお話ししたいと思っています。
藤堂君に誘ってもらった手前、隊を抜けることは心痛みますが、どうも此処は私の性分に合わない。 それに、間島さんの話を聞いて更に思いましたよ。野蛮な男は苦手なのでね」
汚らわしいものでも見るかのような伊藤の態度に、本当に伊藤が新撰組を離れる気なんだと困惑する。
山南までいなくて、伊藤までいなくなっては、誰にこの複雑な想いを打ち明けれ浜いい?