駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「そこで、君に確認したい」
「は、はい」
ずいっと顔を寄せられ、身体を強ばらせる。
「藤堂君は、間島さんを好いてるんだね?」
「っっ!!」
もう良い年をした青年が、たかだかこれしきの事で頬を赤らめ慌てる。
それが藤堂がいかに素直で真っ直ぐな男であるかを物語っていた。
「好いている女性が危険な場にいては、君も安心できないでしょうに。 それに、山南さんのこともそうだ、君は相当疲れている」
山南のことまで知っていたとは。
伊藤はどこまで知っているのだろうか。
「この間のお誘い、忘れてください。 そして、君は彼女と共に生きなさい」
「ーーーーえ?」
自分はそんなに馬鹿ではないと思っていたが、それは違っているのか。
伊藤の言っていることがいまいち理解できず首を傾げた。
「ですから、藤堂君は私と共に行く不利をして隊を抜け、そして彼女も同じように隊を抜けさせればいい。 そして、若い君達は二人で共に静かに暮らしてはどうかな?」
ゴクンと喉がなった。
なんて甘い誘惑なんだろうか。
いつか見た夢そのものが、伊藤の口から聞かされる。
そんなこと本当にできるのか?
隊を脱する者は切腹なのに?
だから山南は死んだのに。
幾つもの思いが藤堂を困惑させて、心が壊れてしまいそうだ。
「大丈夫。 私たちは、山南さんのようにはならないように、それなりに考えてますよ。
さてどうしますか? 私なら、君の望を叶えてあげられる」
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「おや、それは愚問ですね。 私は藤堂君を弟のように可愛がってきたつもりでしたが、所詮つもりはつもりってことでしょうか?
それでも事実私は君の幸せを願ってしまっていてね、それはきっと山南さんも同じだと思いますよ」
「伊藤、さん」
「それに、女性がこんな場所いることも私は気に食わないのでね。 彼女のためにも、君はこちらにつくべきだ」
シャラリ、シャラリ
身体が軋む程に巻き付かれた鎖。
藤堂の心には本人すら解けない鎖に縛られていたのが、伊藤の誘惑で意とも簡単にほどかれていく。
身体も頭も久しぶりに軽かった。
いつからこんな重荷を背負ってしまったのだろうか。
ーーーああ、目の前に光が現れた気がした。