駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
何を言い出すかと思えばそんなことかと鼻で笑った。
静まりかえった部屋には矢央の規則正しい寝息がして、沖田から矢央へと視線を向けた。
「ああ。 そうかもしれねぇな」
いつからだったかなんて分からない。
最初は子供にしか見えなくて、今でも妹のように可愛いと思う気持ちと、大人になった矢央を女として見てしまう時があって自分でも戸惑うのだ。
「私はなんとなく、永倉さんは彼女に惹かれてると感じてましたけどね」
「へえ、そうかい。 そう言う総司もなんだろ?」
「ええ、認めますよ。 私は矢央さんを愛してます」
愛してる。なんて、好きより上を行く沖田に微笑む。
真っ直ぐすぎる青年の想いを、目の前の彼女はどう受け入れる気なのかと。
「でも、彼女は私を選ばない。 いいえ、選べないでしょう」
「なんで? んなことは、お前が決めることじゃねぇだろ」
「そうですね。 でも駄目なんですよ。私じゃあ、彼女を幸せにできないから」
不治の病に侵された沖田の身体は日に日に弱くなっていき、いつかは床から上がることさえ出来なくなると分かっている。
それが遠くない未来に迫っていることも。
愛しているからこそ、結ばれるわけにはいかないのだと。
「何にも負ける気なんてなかったんですけどね。 彼女に関しては、私が身を引く方が良いに決まってる」
何も言わず、ただ天井を見上げた。
「私は貴方達が心底羨ましいですよ。 彼女をこの先も守り続けることが可能なんですから」
「呆れること言うんじゃねぇよ。 お前は新撰組一番隊の隊長様だろうが」
「矢央さんにたいして、そんなもの必要ないでしょう」
それでも慰めているつもりか、と沖田は潮笑う。