駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
ずっと好きだった。
きっと誰よりも早く君の魅力に取り憑かれた。
華奢な身体が傷つくたびに、この手で必ず守ると誓ったのは遠い昔のことだ。
「僕はね、こうやってずっと君に触れたいと思ってたよ? 口付けて身体に触れて、僕のものにしたいとずっと思ってた」
「へ…すけさんっ」
「何もかも失って、僕には矢央ちゃんしかいないんだよっ」
そう呟く唇が、着崩れした首に埋まる。
白く滑らかな肌に吸い付くと、そこには一輪の花が咲いた。
ーーーごめんね。 これでお別れだから。
自分には向けられることはないと思っていた、矢央の怯えた眼に胸が痛い。
しかしこれは決めていたことだから。
矢央が藤堂を受け入れなかった場合、矢央が辛くならないために。
バッと、着物が左右に開かれ、ひんやりとした風に身体が晒されていると知ると羞恥に頬を染める。
新たに涙が流れ、その滴を藤堂の熱い舌が舐めた。
ゾクッと嫌な感覚が身体を襲った。
あの時と同じ恐怖が甦る。
熊木に襲われたあの時と同じ。
「やめてっ、やめてーーーーーーっ!!」
*
気付けば藤堂のいなくなった階段に座って、すっかり暗くなった空を意味なく見ていた。
「なんでっ…なんでよっ」
あの後、藤堂はもう一度口付けをして矢央の上から退くと、さらりと頬を撫でた。
その優しい手に困惑していると、
『さようなら』
と、涙を流して歩き去って行った藤堂の背中を、ただ無言で見送るしかなくて。
暫くたって分かってしまったんだ。
「ずるいよっ…平助さんっ」
あれらの行動全てが、自ら嫌われるためにとった行動だということに。