駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
このまま別れていいはずがない。
そう思って藤堂を探すも、何処を探しても姿はなかった。
珍しく息が上がるが、構ってられないと走り続けていると斎藤に呼び止められた。
「待て。どうして泣いている?」
不安げに見上げる瞳は、いつもの明るい色を灯していない。
なんとなく理由は分かっていたが、斎藤は敢えて自ら言うのは止めた。
「斎藤さん。 斎藤さんも、新撰組を出て行くんですよね?」
やはりそのことか。と、斎藤は視線を反らす。
しかし、反らす前にチラッと見えた矢央の首筋にある跡に溜め息を漏らした。
「ああ、伊東さんに着いて行くことにした。 ところでそれは、藤堂にやられたのか?」
「それ?」
意味が分からず首を傾げる。
そんな矢央に無言で自分の首筋に指をあてチョンチョンとしてみせると、先程のことを思い出した矢央は羞恥に顔を赤くした。
「え?え?なんかあるんですかっ?」
「…意味を理解して顔を赤くしたのではないのか」
ならばわざわざ矢央を追い詰める必要もないだろうと、懐からだした手拭いを矢央の首に巻き付けはじめる斎藤。
何をされているのか分からないまま、なすがままの矢央。
「暫く外さないことを勧める」
「は、はあ。 それより、斎藤さんは、なんで新撰組を辞めるんですか?」
斎藤は近藤や土方に忠実で、どんな仕事も嫌な顔すらせず引き受けていた。
新撰組を抜けるなんて思いもしなかったのに。
藤堂だけではなく、斎藤まで抜けると新撰組は大丈夫なのだろうか。
何せ隊長がいなくなるのだから。