駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「土方さん立ってないで座ったらどうですか?」
そう言われて遠慮なく隣に座り、見事に花を咲かせる桜を見上げる。
「そういや、こうしてお前と春を迎えるのも四度目だな」
「そうですよね。 早いです」
「矢央幾つになった?」
「十九です」
もうそんな歳になるのか。
どおりで大人になったと思うはずだ。
初めてあった時は奇抜な色をした髪の変わった少女だったのに、すっかり黒髪に変わってしまっていて、それも少し名残惜しい。
「土方さん。私、近藤さんの提案通り刀を持とうと思ってます」
「…本当に良いんだな? 刀を持つと言うことは」
「別に人を殺めるために持つわけじゃないですよ? ただ…」
言葉を濁した矢央は、最近の皆の様子を振り返った。
「皆過保護ですよねー。 私、そんなに頼りないですか?」
最近は前にも増して、皆口を揃え「大丈夫か」だの「守ってやる」だの矢央を見るたび気にかけてくれる。
嬉しいことだけど、それは矢央を逆に強くさせようとした。
「守られるだけなんて嫌ですよ。 私は、皆が安心して帰って来られるように、この場所を新撰組を守りたいんです」
土方は声に出さず驚いていた。
本当にいつの間に成長したのだろうと。
「だから刀を持つと決めました。 安易に決めたことじゃないですから」
桜を見上げる凛とした横顔を、不覚にも美しいと感じ思わず腕を伸ばして、矢央のさらっと流れる髪に触れる。
腰まであった髪を一度首にかかるくらいまでに短く切った髪も、今は肩より下まで伸びていた。
特に身体を動かす予定がない時は髪を結わない矢央は、今日も風に髪を遊ばせている。
それを指で掬い、甘い笑みを浮かべる土方。
「土方さん?」
「んなに急いで大人になるなよ」
見つめあい、時が止まる。
普段の土方らしからぬ行動に居心地悪くなって視線を反らした。
「さ、斎藤さんがね…」
「ん」
「良い女になったって」
「…ああ、かもな」
「ええっ? すんなり認めないでくださいよ!」
「嬉しくねぇのか?」
未だに髪を弄るのを止めない土方はクスリと笑う。
分かっていてやっているような気がして、グッと言葉を呑み込んだ。