駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
店をでた二人は桜並木を歩いていた。
「見事ですね」
肩を並べゆっくりと歩きながら桜見物。
「矢央さんと見たいなと思っていたんです」
「ありがとうございます」
毎年行われていた花見だが今年は何かと忙しいと、今年は花見をやっていない。
そんな気分にもなれないだろうというのもあるのだが。
立ち止まった沖田は、桜並木の中でも一番大きな桜の前で立ち止まり仰ぎ見る。
風が吹き、数枚花弁が舞う。
「似合いますね」
沖田と同じように桜を見上げていた矢央は、ふと視線を感じそちらを見る。
すると穏やかに微笑む沖田と目が合う。
「桜が似合うなと思って」
「私がですか?」
「ええ」
笑みを絶やさない沖田を見上げ、沖田の方が似合うけどなと思いながら矢央も微笑んだ。
今では殆ど屯所で過ごす事が多くなってしまった沖田だったが、浅葱色の羽織を身に纏い颯爽と桜並木を歩いていた姿は思い出すと惚れ惚れする程似合っていた。
「総司さんこそ似合ってますよ。 ほんと綺麗です」
強く風が吹き花弁が沖田の回りに舞い散った。
長い黒髪も同時にさらっと靡き、桃色と混じり合う光景に目を細める。
「女子から綺麗と言われるとは思ってもいなかった」
照れ笑いを浮かべ、袖に入れていた腕を片方出すと花弁を掌に乗せる。
「毎年こうして矢央さんと桜を見られることが嬉しいです。 最近は矢央さんの方が忙しそうに走り回っているので、なかなか連れ出す機会がなくて。 良かった、桜が散ってしまう前に見られて」
「そうですね。 相変わらず土方さんの人使いの荒さには困りますよ。 そろそろお茶くらい自分でいれればいいのに、ってこれは秘密にしておいてくださいね?」
じゃないと更にこき使われては敵わないと、大きく息を吐く。
そんな矢央に頷くとホッとした顔を見せるので、思わず笑ってしまった。
「さてと、ではそろそろ戻りましょうか。余り遅くなると過保護な方々が心配しちゃいますからね」
「過保護?」