駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
自分でも滑稽だと思う。
寂しいからと思わず離れて行く矢央の腕を取ってしまった。
少し困ったように沖田の名を呼び見上げる矢央に苦笑いを浮かべた。
馬鹿か。と、心で罵ったりして。
「すみません。 でも…」
放したくない、とは言えずに唇を固く結んだ。
「………」
「………」
時間にして数秒だろう。
沖田は掴んだ矢央の腕を見ては視線を反らしを何度か繰り返して、最終的に諦めたように離れようとした。ーーが。
「…え? 矢央さん?」
スっと少し距離が空いた沖田の手を、何故か今度は矢央がしっかり掴んでいる。
固まったまま、その繋がった手を見つめる沖田。
「……少しだけ」
伏し目がちの瞳は左右に揺れ。 えっと、と言葉を続けた矢央は屯所を指差すと「あそこまでこうしてていいですか?」と、上目遣いで沖田を見上げる。
その途端、沖田の顔はみるみると赤みがさしてくる。
矢央が掴んでいない方の手で口許を隠し、情けなく緩む口許を見られないようにした。
「や、矢央さん、その…」
「…は、はい」
こういうことに慣れない二人は互いにぎこちない。
「どうして、手を…」
「…それは。 …気まぐれです!」
「き、気まぐれ!?」
少し前を歩く矢央の表情は見えず、その真意を確かめることはできないので少しがっかりした沖田だったが。
「…それでもいいと思ってしまう私は、相当重症か」
その声は小さく、他所に意識がいっていた矢央には届かない。
矢央が沖田の手を取った理由は、複雑な気持ちからくるものだ。
時々思う、沖田と過ごす穏やか時間はいつまで続くのかという漠然とした不安。
腕を掴まれた時に感じたのは、前よりも力が弱くなっているということ。
少し痩せたからなのか、体力が落ちたからなのか。
その時感じた不安を取り除きたくて、矢央は沖田の温もりを放してはならないと手を取ってしまったのだ。
「総司さん、また一緒にお出掛けしましょうね?」
「…? はい、いつでも」
沖田は優しく微笑む。
しかし、前を歩く矢央の表情は暗かった。