駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
第六話*新たに仲間入り
桜も散り青葉が色付き始めた五月。
矢央はいつになく緊張した顔持で土方の前に正座していた。
今日は矢央にとって、ある意味新たな出発となる日なのだ。
「間島矢央。 本日より一番隊に配属だ。 此までよりより良い成果を期待する」
「はい」
予てより矢央に刀を持たせ、他の隊士と同格に扱ってはどうかと近藤の提案があったことにより、それを受け入れた矢央の配属先が一番隊になったのだ。
近藤以外は、矢央が刀を持つことに最後まで良い顔はしなかった。
今し方、配属命令を下した土方ですら、本音を言えば今まで通り救護隊として上手く匿ってやりたいと思っていたりする。
その証拠に、やけに凛々しい表情で頷いた矢央を心底呆れた様子で見ている。
「…本当に隊士になるたぁ、お前馬鹿だろ?」
「何言ってるんです? 私は元々隊士じゃないですか」
救護隊と言えど、新撰組隊士は隊士だ。
「そういう意味じゃねえ。 …まあいい。 お前が決めたんだ、文句は言わねぇよ」
意外と頑固な矢央に、これ以上言ってみたところで結果は変わらないと分かっている土方は煙草の煙を肺に吸い込んだ。
口を開けると、ふわあっと紫煙が天井に昇り、閉めきられた部屋は一気に煙草臭くなる。
この匂い苦手なんだよな、と矢央は障子を開けようかと思ったその時だった。
「ふ、副長! お茶をお持ちしました!」
聞き慣れない声に、矢央は首を傾げた。