駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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五月の夜の風はひんやりと冷たくて、風呂上がりの身体には心地好い。
休憩の定位置となっている縁側に腰を下ろして満点の星空を見上げていると、近付く足音に視線を向けた。
「まあた、濡れたままで夕涼みかよ」
「そう言う永倉さんも濡れてるじゃないですか」
にっと口角を上げた永倉は自分の分の酒と、矢央様に冷水を持ち上げて「ちぃっと付き合え」と、矢央の隣に腰を下ろした。
永倉に酒を注いでやると、矢央も喉を潤すために冷水を飲む。
ひんやりとした水が喉を通り、ふうと一息つく。
「一番隊に配属になったんだってな」
多分その話しだろうと思っていたので、直ぐにコクンと頷く。
永倉なら怒るだろうか。
新撰組に入隊する時も、逃げ出し、そして出迎えてくれた時も一番に怒ったのは永倉だ。
だからこの手の話しをする時は、土方よりも永倉の方が若干怖いので、恐る恐る隣にいる男を盗み見た。
しかし永倉の表情は意外にも穏やかで、矢央は拍子抜けしたと肩の力を抜く。
「近藤さんの話を、すんなり受け入れたのはどういう訳だ?」
あ、やっぱりちょっと怒ってる?
「…なんとなく、じゃないですよ。 でもちゃんとした理由があるわけでもないんです。 ただ、守るために刀を持つ時がきたのかなって」
「…守るため?」
呑もうとして傾けていた猪口を止め、矢央を見つめる。
星空を見上げる矢央の瞳は、その星空を映しているのかきらきらと輝いて見えた。
「ほら永倉さん達は、私を守ってくれるって言ったでしょ? だったら私は、永倉さん達が帰る場所を守りたいんです」
いつか永倉が言った『俺達が帰る場所、其処に笑顔で待っててくれる方が嬉しい』その言葉は今も忘れはしない。
「私は皆に感謝しても仕切れない。 だから恩をちゃんと返したいんです。 そのために、私が出来そうなことは何でもやろうって」
もう迷いはないのだから。
「はあ…お前って奴は」
ガシャガシャと荒く髪を撫でられる。