駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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幕臣取り立ての内示があった次の日、今度は新撰組隊士全員が呼び出しをくらい何事かと思っていれば屯所を移転するという知らせだった。
沖田と共に一番後ろの隅っこで近藤の話を聞いて「いつも急だなあ」とぼやく矢央の隣で沖田は苦笑いだ。
「なんでお引っ越しするんですかね? 良いとこ見つけたんですか?」
「不動堂村に移転するようです。 なんでと聞かれると、あまり良い内容ではないですね」
この度の移転は以前から新撰組を良しとしない西本願寺側が、屯所移転費用を全て負担するから出て行ってほしいというもの。
境内で剣術や大砲、小銃の訓練をし、斬首や切腹も行うやりたい放題の新撰組に一刻も早く出て行ってほしい寺側の苦渋の決断だった。
「土方さんは嫌がらせが出来た上に、かなり良い屯所を貰えたことで高笑いしてましたけどね」
「あの土方さんが高笑い? 見てみたかった」
「いえいえ、鬼の笑う姿はある意味恐怖ですよ」
一応上司なのに流石沖田である。
土方に臆することなく笑って言って退けた。
「はあでも、たった四日で荷造りですよね? 勿論任務はそのまま続行でしょ? やっぱり鬼ですよ鬼」
「あはは。 私も手伝いますから」
「体調大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。 矢央さんも心配性ですね」
両腕を袖に通したまま肩を竦める沖田に念入りに確認する。
やはり病気を知っている矢央は、沖田に無理をさせたくないのが本音なわけで、少し咳き込むのを見ただけで過剰に反応してしまうのだ。