駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
場所を移して山崎の部屋で、薬や書物の整理をしている矢央は見事に医学に関するものばかりだと感心していた。
観察の仕事も優れている山崎だったが、松本の元で医学を学んでからは元々医学の知識もあり真面目な性もあってみるみる知識を身に付けていく。
今では医者としても山崎は新撰組に欠かせない存在となった。
「だいたい片付きましたか」
「せやな。 ところで、お前ほんまに一番隊に入ること後悔せんのか?」
椅子の背に片腕を乗せ振り返った山崎は、何を考えているか読めない表情をしている。
書物を纏め紐を結び終え、山崎を見上げると苦笑いする矢央。
「ほんと皆揃いも揃ってそればっかり。 私は大丈夫ですって」
これで何人目になるだろう、と数えて頬が緩む。
それだけ気にかけてくれる人間が矢央の周りには大勢いるのだと思えば、多少の過保護ぶりも笑いに変えよう。
「せやけどなあ、どうも解せんのや」
山崎は矢央から視線を小窓へと移し、少し日が傾きかけた空を見詰める。
「俺はどうしても女の幸せは、好いた男の元へ嫁ぎ子を産み育てるもんやと思ってもうて。間島のやりよることは、どんどんそれから遠ざかりよる。 しかも己からや…やっぱり解せんわ」
「あれ? 山崎さんは、私が新撰組にいること認めてくれてると思ってたましたけど」
これも過去の話になるが、まだあまり山崎と関わりがなかった頃のこと。
そしてまだ矢央が全てを土方達に語っていなかった時、矢央は寂しさに襲われ蔵へと身を潜めたことがあった。
その時、一番に矢央を見つけ出した山崎は真実を話さなければ意味がない、と言う風に矢央を導いてくれたことがあり、その時の山崎の後押しがあって矢央は勇気を出して全てを包み隠さず打ち明けることができたのだ。
あんなことをしてくれたのだから、何も言われなくても山崎には受け入れてもらっていると思っていたのだが。
それも、ただの自惚れだったのだろうか。