駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
ずっと考えたいた。
先程永倉が言った「冗談じゃない」、あれはどういう意味なのかと。
どう考えてもからかっているとしか思えないのに、冗談じゃないならなんなのだと。
昔からそうだった。
永倉という男は、矢央には大人すぎて何を考えているのか分からない。
甘やかしてくれると思えば冷たく突き放され、そしてまた甘やかされる。
いつも複雑な感情を持て余すのは、いつだってこの目の前の男に対してなのだ。
癖のある髪。 出会った頃はちょこっと襟足部分を結んでいたが、今はその部分も伸びていてゆらゆらと揺れている。
触り心地良さそうだ、なんて思いながら歩いていれば、ふと目の前のゆらゆらも止まった。
「…今度は何が?」
屯所まで帰るのに、今日はあと何回歩みを止めるのだろう。
矢央は永倉の背後から、ひょこっと顔を横にずらし永倉の視線の先を見詰める。
そこには木に背中を預け笠を目深に被った、何とも言えない雰囲気を醸し出す男が一人。
その男は矢央達を待ち伏せしていたのか、砂利の音が自分の目前で聞こえなくなると、ゆっくりと顔を持ち上げた。