駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
未だに笑う沖田の隣で、風に運ばれてきた金木犀の香に瞳を細める。
ああ、秋だな。
と思うと同時に酷く懐かしい香り。
「どうした?」
大人しくなった矢央に、永倉は声をかけた。
すると少し寂しそうに笑う。
「金木犀の香りって、よく家族で遊びに行ってた公園を思い出すんです」
「…そうか」
もう四年、家族とは会えていない。
色々ありすぎて、家族にもう会えないんだと言うことを心の隅に追いやっていたが、こうして考えてしまうと、やはり寂しい。
会えないのは覚悟の上、それを選んだのは矢央なのだから後悔しない。
しないが、元気にしているのかとか、一人娘が消えて悲しんでいるのだろうかとか考えてしまうと。
「…親不孝だなあ」
もう彼方では死んでいることになっているのか、どうなっているのかすら分からない。
だからせめて、家族が元気でいてくれることを祈るしかない。
「寂しいですか?」
「寂し…く思うこともあるけど、それよりも元気でいてくれたらいいなと思います」
「そうですね。 貴女が元気でいれば、立派な孝行になりますよ」
「ああ、そうだ! それによ、お前ぇは俺達の仲間であって家族だ! 寂しがる必要はねえぞ!!」