駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

未だに笑う沖田の隣で、風に運ばれてきた金木犀の香に瞳を細める。

ああ、秋だな。

と思うと同時に酷く懐かしい香り。


「どうした?」


大人しくなった矢央に、永倉は声をかけた。

すると少し寂しそうに笑う。



「金木犀の香りって、よく家族で遊びに行ってた公園を思い出すんです」

「…そうか」


もう四年、家族とは会えていない。

色々ありすぎて、家族にもう会えないんだと言うことを心の隅に追いやっていたが、こうして考えてしまうと、やはり寂しい。


会えないのは覚悟の上、それを選んだのは矢央なのだから後悔しない。


しないが、元気にしているのかとか、一人娘が消えて悲しんでいるのだろうかとか考えてしまうと。



「…親不孝だなあ」


もう彼方では死んでいることになっているのか、どうなっているのかすら分からない。


だからせめて、家族が元気でいてくれることを祈るしかない。



「寂しいですか?」

「寂し…く思うこともあるけど、それよりも元気でいてくれたらいいなと思います」

「そうですね。 貴女が元気でいれば、立派な孝行になりますよ」

「ああ、そうだ! それによ、お前ぇは俺達の仲間であって家族だ! 寂しがる必要はねえぞ!!」


< 375 / 640 >

この作品をシェア

pagetop