駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
矢央は原田を見て眼を見開く。
この原田という男は単純で、喧嘩っ早く、いつも困らされていたが、こうして時々とても嬉しくなることをさらっと言ってしまう。
「そうだな、俺達は家族だ。んとに、手間のかかる妹もつと俺達は大変だ」
「ああ、そうだそうだ! 矢央、寂しいなら、俺のことお兄様と呼んでいいぜ!」
「…はは、遠慮しまぁす」
家族。
新選組の仲間は家族だ。
失ってしまった大切なものを一つ取り戻せたような気がして、少し視界が霞んだのは秘密だ。
「あれ? 皆さんこんな所におられたんですか?」
四人で秋の香る庭眺めていれば、大荷物を抱えた市村が声をかけた。
土方が不在だというのに、市村はしっかりと土方に任されていた仕事をこなしているらしい。
「おお、鉄ぅ頑張ってんな!」
両手を後ろについて見上げてくる原田に、サボると後が恐ろしいと笑う。
「ところで鉄君。その大荷物はなんです?」
細身の市村が重そうに抱えている物に一気に視線が集まり、幹部達に見られていると思うと照れる市村。
その姿は、まだあどけなく矢央ですら可愛いと笑みを浮かべる。
「あのこれは、副長が京を発つ前に処分しといてくれと言われていたもので」
「えー、そんなの帰ってきてから土方さんがすればいいのに!」
「いえ、副長は忙しいから、これくらい」
「ああ、駄目駄目!駄目ですよー? そうやって市村君が土方さん甘やかすから、あの人更に圧かしくなっちゃうんだよー!?」
矢央は至って真面目に言うが、それを聞いている市村は土方がいないはずなのに背筋に悪寒を感じブルブルと震える。