駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
新選組とは敵同士と言えど、たった一人の女子の存在で僅かに繋がっているのだ。
数ヶ月前に別れを告げた女子の笑みを思い出し、少し落ち着こうと息を吐いた。
どちらも坂本にとっては本当の信用はないが、それでも矢央のことだけは信用していた。
「新選組のお…。それはおかしいな話ぜよ? 新選組に俺の命を狙う指示を出す奴がおるとは思わんが」
「…それこそおかしな話では? 新選組は幕府の犬。 坂本殿は、その幕府のお尋ね者ならば十分に狙われる理由になるではないですか」
怪訝な視線を向けられた坂本は、ニヤリと口角を吊り上げる。
「確かに味方ではないがの。 そんでも彼等は、この俺に卑怯な手を使ってくることはないはずぜよ。 正面きって捕まえに来ると言うなら、信じゆう」
この男達に比べれば、まだ新選組、否、土方の方が信用出来ると坂本の眼は語っていた。
それが気に食わないのか伊東は拳を握る。
そこでようやく、熊木が口を開いた。
「信じる信じないのも貴方次第ですよ。 ただ忠告してあげているのです、日の本の英雄になられる坂本さんを、こんなところで亡くすのは勿体ないと思いましてね?」
「英雄? 勿体ない? まるでこの世の先を見透かしちゅうな言い方ぜよ」
「この世の先ですか…。 それは坂本さんも似たようなもんでしょう?」
「俺は、この世の先なんが分からん。 ただ自分の目指す日の本のため踏ん張るだけじゃ」
へえ、流石は坂本龍馬だと、熊木はくくっと喉を鳴らした。
この賢い男は最早、自分の正体に気付きつつあるらしいと。
だから最近、桂さんの様子がおかしかったのかな。
と、熊木が顎を撫でていると、伊東がどうしたものかと熊木を見上げているのに気付き、にこっと笑って見せる。