駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「まあ、坂本さんの言う通りかも? 新選組はこれから貴方を狙う余裕は無くなるはずですからね? ねえ、伊東さん?」
「ええ、ええ」
伊東まで可笑しそうに笑う。
いったい何が起ころうと言うのか。
「……っは!? まさか、おまさんらっ?」
熊木と伊東の共通点があるとすれば、どちらも新選組を敵対視していることだ。
そして熊木に至っては、新選組にいる坂本も大切にしている存在を狙っている。
何か仕掛ける気ぜよっ!!
坂本は隣に置いておいた刀を掴んだ。
伊東は相当な手練れだと聞くし、熊木の力は底知れない。
二対一で勝ち目はあるか?
「あははは! いやだなあ? 坂本さん、我々は敵ではないですよ? その刀置いてください」
「…新選組のことに関しては口を挟むつもりはないぜよ! しかし、矢央のことは別じゃ!!」
矢央こそ、こんなところで死なせて良い存在ではないのだ。
傍で守ってやれなくても、矢央に迫る危機をこの場で食い止めなければ。
「皆、彼女が大切なようだ。 まあ、それは俺にとってもですよ?」
「矢央から手を引け、さもなくば斬る!」
「坂本殿っ、少し落ち着いてください! 大丈夫ですよ。我々とて彼女を殺そうなどと思っていませんから」
伊東が宥めると、坂本は目線を熊木に向けたままで座り直す。
「私は熊木殿に間島さんを渡すことを条件に手を貸して頂いたのです。 なので、彼女は必ず生きたまま此方に連れて来るつもりですから」
そうすれば、坂本殿も彼女に会えるのですよ。と、伊東は微笑む。
だから信用しろと?
矢央の命が助かる保証など何処にもない。
しかし、此処でやり合うよりは信用したと見せかけた方が利口だろう。
そして直ぐにこの情報を土方へ届ければ、多少なりと対策も練れよう。
「…わかったぜよ。 おまさんらの忠告、取り敢えず頭の隅に置いておくきに」
「ええ、是非ともそうしてください…」