駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
話し合いを終えた後、矢央は一人自室の前の廊下に佇んでいて。
赤く染まる空を見上げ、その双眸は不安に揺れる。
泣くな、と言い聞かせた。
藤堂は助かるんだ。
一緒に暮らすことは出来なくても、どこかで生きていてくれるなら、今の政情が落ち着けばいつか会える。
そう、また笑って会えるんだ。
「泣いてんのか?」
「…泣いてない」
そう言いながら、夕空を見上げる矢央の瞳は潤んでいるので永倉は苦笑いした。
矢央の隣に立ち、その頭にいつものように掌を置いた。
ポンポンと数回叩いて、そっと撫でる。
「平助は大丈夫だ」
「…永倉さん、約束してくださいっ!」
何度大丈夫と言い聞かせても、不安で胸が押しつぶされそうになる。
その不安を拭いたくて、永倉の胸に飛び込んだ。
いつもなら照れてこんなことはしない矢央だったが、今は何かに縋りたい。
永倉の香りがする胸元に顔を埋め、着物をぐっと握り締めれば、永倉はそっとその細い体を抱き締める。
「お願い…絶対に、平助さんを、守って…お願い、します…」
矢央の声は震えていた。
その声が、もう大切な人を失いたくないと言っているのは分かる。
「勿論だ。 だから、矢央は安心して屯所で待っててくれ」
何度も頷いた。
誰一人、仲間が欠けることなく戻ってくるように願いながら。