駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
時を遡ること数刻前、御陵衛士の様子がおかしなことに気付いた藤堂は篠原という男に尋ねた。
「何か騒がしいけど何かあったの? それに伊東さんの姿も見かけないけど」
「…伊東さんなら、近藤さんのお宅に宴に呼ばれて行きましたよ」
「え? 近藤さんのとこに? それはおかしくない?」
何故今更、近藤と伊東が酒を飲み交わす必要がある。
何かにつけて伊東は近藤達のことを良く云わなかったのにと、藤堂は怪訝した。
「貴方にも知る権利はありますが、この話を聞いて貴方が大人しくしているはずはないと思って、伊東さんは黙っているようにと」
「は? 何だよそれ?」
その言い方ではまるで自分は仲間ではないようではないか。
御陵衛士になってからというもの、藤堂は何となく己の居場所がないと感じ居心地悪く暮らしていた。
但しそれは新選組にいても同じだった。
いつの間にか、どちらでも孤独を感じずにいられなくなっていたのだ。
しかし、心は未だに裏切ったはすの新選組にあると伊東は感じていたのだろう、だからこの度の計画は藤堂には内密にと伝えられていたのだ。
だが篠原は、今更それを話したところで、もう藤堂に打つ手立てはないだろうと判断した。
そして告げられたのが、新選組に奇襲をかける計画だった。
「なんだとっ? なんでそんな…」
新選組が襲われる。
かつての仲間が、そして彼女が危険に晒される。
藤堂はいても立ってもいられず、新選組に向かおうとした。
屯所に行ったところで、その場で斬り捨てられるかもしれない。
永倉達に会えれば可能性はあるかもしれないが、今更信じてくれるのか?
その不安が藤堂の足を止めると、そうなると予想していた篠原は藤堂の肩に手を置いた。
「貴方は此処で大人しくしていればいい。 そうすれば直ぐに事は済みます」
握られた拳はわなわなと震えたが、何も言い返せない。
それから大分時は経ち、辺りはすっかり闇に覆われた頃、御陵衛士達は数十人の男たちを引き連れ出て行った。
たった一人残された部屋で膝を抱えた藤堂は、悔しさに唇を噛んだ。
なんだよ!
なんなんだよっ!!
何もかも後になって結果を知らされて、いつも歯痒い思いだった。
助けたいのに守りたいのに、いつも後になって知らされる。
そして取り残されていく。
心が闇に蝕まれていく。
「…僕には何も出来ないって言うのかっ」