駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「近藤さんっ!!」
隊服を着る暇もなく戦っていたらしい近藤の着物は大量の血を浴びていたが、沖田がかけよると驚いたが直ぐに笑みを浮かべた近藤を見ると自身の血ではないことを察しほっとする。
「総司、お前大丈夫なのか?」
前方から飛んでくる白刃をかわし、右肩から下へと斬り捨てる。
「ええ、こんな時に寝てるなんて勿体ない!」
後ろから来た敵を近藤に向いたまま突き刺して、隣から来た敵を蹴り飛ばした沖田は声を出して笑っている。
「無茶はするんじゃないぞ!」
「近藤さんこそ、怪我しないでくださいね!」
近藤と沖田は背中を合わせて息を整えると、にっと笑みを浮かべ向かって来る敵に同時に斬りかかった。
「さすが土方殿。 新選組副長は伊達じゃないようだ」
月明かりだけを頼りに土方と伊東は向き合い、刃を交えていた。
「…あんたはさっきから足がおぼつかねえな。飲み過ぎたか?」
伊東の繰り出す剣を受け流した土方は、後方へ軽く跳び距離を取った。
伊東は何が可笑しいのか、くすくすと笑いっぱなしで気味が悪い。
まだ何か企んでるのか?
「一つ良い事を教えてあげましょうか」
刀を下げて意味深に微笑む伊東を睨む。
黙ったまま睨み付ける事で先を促した。
「熊木殿は、あの娘を捕らえたいのではなく、殺したくて仕方ないようですよ」
「は? 殺す、だと」
「ええ、それも簡単に殺すのではなく外堀から少しずつ彼女を追い詰め、最後には自ら命を断ちたいと思わせたいのだとか」
伊東の話を信じるわけではないが、これまで何度か熊木には矢央を殺す機会はあったはずなのに、それをしなかった。
外堀から追い詰めるとは、矢央を孤立させたいと言うことなのだろうが、その意図は?
「何故そのようにまどろっこしいことをするんでしょうかね?」
流石に理由までは知らなかったらしい。
しかし、それが本当なら早く此方を片付けるべきだろうと、土方の手に力が籠もった。
「伊東さんよお、話はそんくれぇにして、そろそろ片付けようか」