駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
藤堂達の周りでは新選組が残っていないかと男達が騒いでいるのに、彼等の周りだけまるで別世界のように音が止んでいる。
太股の上で強く拳を握り、必死に想いを我慢していた。
戻りたい。
もう一度、仲間と共に。
もう一度、愛しい彼女と共に。
けれどそれは許されないことだと分かっている。
斉藤と違い藤堂は本当に新選組を、仲間を裏切ったのだ。
心は確かに彼等を求めさ迷ったまま、身体だけを御陵衛士へと運んだが、そんなもの言い訳にもなりはしない。
「戻れるわけないだろっ。 もう、新選組にも御陵衛士にも戻れない! 僕の居場所はないっ」
全て失うと分かっていても、最後に約束を果たそうと此処に来た。
「これからは、二人が矢央ちゃんを守ってよ…」
力なく言う藤堂に思わず手を出してしまう。
バシーンッと、乾いた音が鳴り、藤堂の頬にうっすらと赤味が浮かぶのを、永倉と原田は黙って見ていた。
「約束、約束ってっ、平助さんは私を守るってて確かに約束してくれたよっ!? でも、私だって約束したんだっ!」
「………」
「大切な皆を、大切な新選組を守るって、私だって約束したっ!! だから、私は今此処にいるんです!」
うっすら浮かんだ涙を拳で拭い、藤堂の前に跪いてそっと頬に触れる。
ビクッと藤堂は肩を揺らし、ゆっくりと矢央に向けると潤む瞳と眼が合った。
「私にも守らせてください、平助さん」