駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
戦い詰めで額に汗が浮かんで、その汗が眼に入る前に拭い最後の一人を斬った。
「…楽勝だってんだ」
永倉の呟きに、どこがだよと苦笑い混じりの声がする。
肩に槍を乗っけたまま、ふうと大きく息をつく原田も流石に疲れたのだろう。
「熊木は?」
「消えた」
「チッ、またかよ…。おーい、矢央無事か?」
仕方なく屯所に戻ろうと矢央に声をかけた原田は、矢央の様子がおかしなことに気付き歩み寄る。
その原田の後に永倉も続き、座り込んだ矢央に近付くにつれ、その眉間に皺を寄せた。
「んだよこれ…」
「平助っっ!!」
原田はその光景が信じられず立ち尽くし、永倉は慌てて駆け寄る。
「…っ…平助さんがっ…私を庇ってっ」
「落ち着け!! 取り敢えず止血だ!!」
ガタガタと震える矢央の足の上に頭を乗せ、荒い息づかいを繰り返し、大量の血を流す藤堂の腹を脱いだ隊服で押さえる。
どうなってる?
自分が最後の敵と戦っている時、ちらりと見た藤堂は矢央を守っていたはずだ。
その周りには誰もいなかったのに、何故こうして血を流しているのか。
「…三浦?」
人の気配がした方を睨む原田の言葉に釣られ、永倉もそちらを見ると血のついた刀をぶらさげた新選組隊士の姿に愕然とする。
もう全員逃がしたと思っていたのに、何故一人此処にいるのかと困惑していれば、その答えをか細い声が教えてくれた。
「三浦さ…んが、平助君を斬ったっ。 でも、三浦さんは、多分操られてて…っう…それでっ…」
「ああ、そうか。 平助は、仲間だから斬らなかったんだな」
ほっとしたような、それでも少し悔しさを込めて永倉は言った。
熊木に操られていると分からなかったにしろ、藤堂ならば三浦の攻撃を避けることは出来たはず。
「わ、たしが…死んだと思ってた人に近付いたから、その人まだ刀握ってて、それで…平助さん…」
つまり死にかけの敵に襲われそうになっていた矢央を助けようとして、その背後から三浦に斬られたのだ。
三浦を見れば、何か譫言を言いながらふらふらとしていて危なっかしく、原田は仕方なく三浦の腹を殴り気絶させた。
その方が本人にとっても良いと判断したのだ。