駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
血が溢れて止まらない。
隊服まで赤く染まり、焦り始める。
その時だった、矢央の掌が淡く光輝き、震えるその掌を藤堂に伸ばしたのは。
「矢央っ!?」
「…っいま、助けるっ…から…」
長い間使っていなかった、矢央の不思議な力。
矢央が昔、藤堂の腕の傷を自身に移したことがあったが、それをすればこの藤堂の傷がまた矢央に移るということになる。
そんなことをして、矢央が大丈夫なわけがない。
だが、そうしなければ藤堂は………。
「…駄目、だろ。 それは…もう…し、ないっ…や、そ…くしたじゃんっ」
自分の腹に被さる小さく震える手を掴み、やっとの思いで言葉を繋ぐ藤堂。
「平助っ!!」
「おいっしっかりしろ!」
原田も藤堂の傍に寄ると、藤堂を囲むようにして三人は藤堂の顔を覗き込む。
重そうな瞼を必死に開き矢央を見上げると、藤堂はもう一度言った。
「その力…使わない、でよ…」
「でもっ、じゃないと、血が止まらないっ」
あの時山崎を帰さなければ良かったと、今更後悔しても遅く、矢央は頭を振って手を伸ばすのを止めない。
パアアと、傷の辺りが輝く。
少しだけ藤堂の辛さが減ると同時に、矢央の腹部に僅かな痛みが走った。
「っく、止めろって…言ってんだろっっ!!」
「きゃっ!!」
どこにそんな力があるのか、藤堂は身体を起こし矢央を突き飛ばした。
驚く矢央は、初めて向けられる藤堂の怒りにグっと唇を噛んだ。
「止めろ…そんなことしてっ…矢、おちゃ…が傷つくの…見たくないんだよっ」
肩で息をする姿が痛々しく、ふらっと倒れる藤堂の身体を原田が支え壁に凭れさせた。