駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
矢央がこの時代に来て直ぐだった、あの時も矢央を守ろうとしたのに腕を負傷し、その傷を不思議な力で治してくれたことがあった。
あの時、怪我をしたのが自分で良かったと思ったんだ。
なのに彼女に傷が移ったと分かった時、どれほど悔しかったか知れない。
だからあの時、もう二度とその力は使わないでほしいと願った。
「…僕は、さ…やおちゃ…んに、これまで何もして、あげられなかったから…せめて、こんな時くらいかっこつけさせてよ」
「っ、こんな時だから、カッコつけないでよ」
「…はあ、分かってないよね。 好きな子…守って死ねる、なら…そんな最期なら喜んで…受け入れるさ」
辛いはずなのに微笑む藤堂を見ていられなくて、矢央は顔を覆った。
声を押し殺し泣いているのか、細い肩が揺れていた。
ああ、また泣かせてしまった。
泣かせたいんじゃないのに。
矢央にはいつでも笑顔でいてほしかった。
初めて会った時、この時代では見かけない変わった髪色のまだあどけなさの残る少女は、どこか寂しげに微笑むような子で、
「や…おちゃ…」
強気な態度も、ただの強がりなんだと分かった時は守ってやりたいと思った。
きっと誰よりも一番に藤堂が矢央に恋心を抱き、そして一番に溶け込んだ。
笑った顔が花のように可愛らしく、その存在は太陽のように眩しくて。
「へ…すけ…さん」
「や、おちゃ…わら…て」
藤堂の周りに血溜まりができ、矢央は血がつくのも躊躇わず藤堂の目の前まで来ると伸ばされた藤堂の手をギュッと掴んだ。
この手には沢山支えられてきた。
温かくて優しい手が大好きで、失うなんて想像すらしたことがない。
だから、今回だって助かるんだと信じたいのに、その心とは裏腹に矢央の大きな瞳からボロボロと涙が溢れてしまう。
笑え…笑え!!
そう思えば思うほど涙は止まってくれない。
すると、突如左右からの腕が矢央を襲いだし、こちょこちょと脇腹を擽っている。
むず痒い感覚に、涙を流しながらも大きな声で笑い出す矢央を藤堂は嬉しそうに見詰めた。
「なっ…ひゃはっ…ちょっあははっ…ううっやめっ…あはっはっ…あはっ」
「新…八さ…左之さ…ありが、と」