駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「平助さんっ!!」
ーーーごめんね、もう声出ないんだ。
藤堂は必死にすがりついてくる矢央に、ただただ詫びる。
その細い身体を、これから先も守りたかったけど、それももう出来そうもない。
約束したのに、もう守ることはできないと心で詫びた。
スーッと頬に触れていた手が力尽き、地面に引き付けられるように落ちていく。
「やだっ平助さんっ! 死なないでっ…死んじゃやだっ、やだやだやだっ!!」
「……や、お…」
ーーーー好きだよ。
たった四文字の言葉も伝えられないまま、藤堂は静かに息を引き取った。
涙に塗れた瞼が、もう開かないと気付いて泣き喚いた。
「ああああああああっ!!」
矢央が夜空を見上げ泣き叫ぶと、永倉と原田もその矢央を抱きしめ泣いた。
きっと身体は痛いはずだ、二人とも力の加減が出来ない程に苦しくてしかたなかったから。
助けられた命だったのに。
今回は大切な仲間を、友を、殺さずにすんでいたはずなのに。
ーーー平助。
「お前、本当に総司と同じ歳なのか?」
「……え、まあ、そうみたいですけど」
「にしては小せぇな! ンなんたど女にもてねぇだろ?」
「……大きなお世話です。 あんた達こそ、暑いからって朝から褌姿で寝転がってるようじゃ女いないだろ?」
「……」
「…ぷはっ! 面白れぇな、お前…いや、平助!これから飲みに行くんだ付き合え!」
「は? 平助って…勝手に呼ぶなよ、な」
「なあに笑ってんだよ?気色悪いぞ。んなことより平助さっさと支度して行くぞー」
「っっ!!…ま、待ってよ! 新八さんっ左之さん!」
出会った時の記憶が蘇り、涙に歪む視界で逝ってしまった藤堂を見ると、永倉はずずっと鼻を啜って微笑んだ。
ーーーなあに、笑ってんだよ。
満足したような笑みを浮かべていた藤堂。
永倉は、そんな藤堂に誓う。
ーーーお前の分も矢央を守ってやるよ。
だから安心して逝けと。
腕の中で、いつまでも藤堂の名を叫び続ける矢央を抱きしめ誓った。
誰よりも愛に飢え、誰よりも仲間を想って逝った青年。
まだたった二十四年である。
あまりにも若すぎる青年の死を、暫く三人は抱き合って泣いた。
そして見上げた夜空の中の一つが光り、まるで藤堂が別れを告げたように感じたーーーーー
慶応三年、十一月十八日。
元新選組八番隊隊長、藤堂平助、没年二十四。
油小路の歴史は変わる事なく、藤堂の命を奪ったのだったーーーーーーーー