駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
其の五
第一話*更なる追い討ち
いつまでも泣いてはいられないと、永倉と原田は濡れた頬を荒々しく拭い立ち上がると、未だに泣きじゃくる矢央を見下ろした。
血と涙に濡れた藤堂の亡骸と交互に見て、重い口を開く。
「矢央、そろそろ屯所に戻るぞ」
こんな状況でなければいくらでも泣かせてやりたいが、そうもいっていられない。
此方がこんな状況だったのだから、土方達にも何かあるに違いないと気が焦り始めていれば、顔を上げた矢央が藤堂を見て、また新しい涙を流すものだから、どうしたものかと頭を掻いた。
「矢央…」
「…平助さんを、置いて行くの?」
永倉に対して矢央は大概敬語を使うが、今は敬語を使うのも忘れる程動揺しているらしい。
見上げる濡れた双眸がゆらゆらと揺れていた。
「これは新選組の仕業とバレる訳にはいかねえからな。 辛いだろうが、御陵衛士の奴らは置いておくしかねえんだ」
永倉達とて友である藤堂の亡骸を此処に置いおくことに胸を痛めるが、それも仕方ないことだと割り切るしかない。
「ほら矢央、帰るぞ?」
黙って二人を見守っていた原田は、珍しく優しい物腰で矢央を促す。
へたりと座り込んだままの矢央の顔を屈んで覗き込むと、大きな掌で頭を撫でてやる。
「…でもっ平助さん…ふっ…」
どうしても踏ん切りがつかず、また泣き出した矢央は自分の顔を覆う。