駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
突然の熊木の登場にその場にいた者達は一瞬動揺に揺れたが、熊木が見上げている方を見て沖田が声を上げた。
「矢央さんっ? 何故そんなところに?」
屋根の上で降りられずに熊木を睨む矢央を見て沖田は首を傾げ、土方は近くにいた山崎に矢央を降ろすように指示を出した。
指示に従い山崎が屋根に簡単に登と、腹を押さえ込んだままうずくまっていた矢央を見て方眉をピクリと動かす。
「…怪我したんか?」
「…ご、ごめんなさい。お腹をちょっと」
瓦の上を歩き矢央の前で跪いた山崎は、脂汗の滲む矢央の頬を撫でる。
その仕草は優しくて、まさか山崎にそんなことをされると思わない矢央は目を見開き固まったまま山崎を見上げていた。
「無事に帰ってこい言うたやろ。 ほんま、手やかす部下やな」
「ご、ごめんなさい」
謝ることしかできなくて、どうしようと慌てている矢央の脇に腕を差し入れ立たせると「悪いが手当ては後や」と、そのまま土方達の下へ飛び降りる。
着地する時、矢央の傷に負担がかからないようにしながら。
「矢央…」
山崎の肩を借りたまま立っている矢央の顔に影がさし、その声を辿り見上げれば無表情の土方がいて、
「ひ、土方さん…」
怒っているのだろうかと、恐る恐る見上げられる土方はうっすら口許に笑みを浮かべ乱れた頭に大きな手を乗せた。
ふわっと、土方の香りがした。
少し血の匂いも混ざってはいたが。
「よく帰ってきたな。永倉達は?」
「あ、はい…。 只今帰りました」
否、意識ない間に連れて来られたのが正しいが自分の口からは言わないでおこうと思う。
「永倉さん達は、大丈夫だと思います」
「…そうか」
矢央の言葉に若干引っかかりを覚えるが、矢央か生きているなら永倉達も大丈夫だろうと思い出し、今一度熊木と伊東に向き直る。