駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

土方が眉間に皺を寄せ熊木を見れば、伊東に何やら言われているが鬱陶しそうにして対応していない。

その熊木は伊東を無視し、口許を緩める。


「さて間島さん、どうやって彼等を守りますか? たった一人守れなかった貴女が」


その言葉に矢央は眉を寄せ、土方達は矢央に視線を送った。

居たたまれなくなり顔を俯かせると、代わりに熊木が語り出す。



「藤堂平助を救えなかった貴女が、どの様に新選組を守ろうと言うのか」

「平助…」


隣から藤堂の名前を呟いたのは沖田だ。

沖田を見上げると、古くからの仲間を失った悲しみがその瞳に見え隠れしている。


それを見て、また矢央の胸は締め付けられた。


ごめんなさい。
皆の仲間を守れなくて、ごめんなさい。


きゅっと結んだ唇は、わなわなと震えていた。


すると沖田とは逆の隣にいた山崎が小さく息を吐き出し、その音にビクッと肩を揺らした。


「…何があったか知らんけど、こんな状況や。誰が死んでも、お前のせえやない」

「山崎、さん…」

「確かにそうだ。 矢央君は、あいつ等に危険を知らせに行ったんだ。 大したものだぞ」

「近藤さん…」

「平助は、きっと最期に矢央さんに会えて悔いはないでしょうからね」

「総司さん…」


視界が揺らぐ。
自分を責めていいのに、口々にする言葉は矢央を優しく包み込んだ。


「お前が無事なことが藤堂の救いだろうよ」


見詰める先に土方の大きな背中が映って、高く結われた長い黒髪が風に揺れていた。


「土方さんっ…でもっ!」

「あんま自分を責めるな。 責めるくれぇなら、その想い全部あいつにぶつけてやればいいじゃねぇか。 どうやら、もう逃げる気もねぇみてぇだしな」

「…皆さん優しいんですね。 まあ、藤堂さんは死ぬべきして死んだので俺のせいじゃないですが」


その運命へと導きはしたがと、視線を伊東へと移せば伊東も多少驚いているようで、藤堂以外の御陵衛士はどうなったのかと熊木に尋ねてくる。


「ああ、御陵衛士は数人逃亡した以外全員死にましたよ。新選組の手によって」

「…そんなっ! それでは話が違うではないか? 我々はこの戦に勝利すると、新選組を私ものにできると熊木殿は仰った!!」

「…そもそもそれが可笑しいとお気付きになりませんか? 伊東さん程の頭をお持ちなのに?」

「くっ…」


腕を組んだまま鼻で笑う熊木に、漸く此処にきて騙されていたと気付く伊東。


もう取り返しのつかないとこまできていると伊東にも分かる。

何故なら、自分以外の御陵衛士は全員油小路へとやっていて、此処にいるのは熊木が手配した男達なのだから。


< 416 / 640 >

この作品をシェア

pagetop