駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
坂本と最後に会った日のことを思い出す。
自らの危険を省みず、何度も矢央の危険を知らせに来て、そして叶わぬと分かっていながら仲間になろうと誘ってきた坂本。
初めて坂本と出会ったのは、京都の雑貨屋で其処の娘が矢央の見ていた赤い結い紐をあげると言うのを、ただでは申し訳ないと断っているとそれを坂本が買ってくれた。
その結い紐は坂本と矢央を繋ぐ唯一の物で、進む道は違えど友である証だと大切にしていた。
楽しい時も辛い時も、いつでも矢央の髪に飾られた赤い紐はよく目立っていた。
「さか…も…さぁああんっ!!」
新選組が信じられなくなって逃げ出した時も坂本が匿ってくれ、そして岡田以蔵とも出会い、その二人のおかけであの時の苦しみは和らいだ。
そして新選組に戻ると決めた矢央を攻めずに、いつでも矢央の味方でいてくれたのだ。
きっと新選組よりも先に出会っていたら、何の迷いも不安もなく坂本龍馬という男に矢央は着いていったはずだ。
それ程までに魅力的で頼もしく、矢央にとって失いたくない一人だった。
なのに目の前の男は、またしても矢央から大切な人を奪っていく。
「返して…返してよっ…平助さんも坂本さんも…返してよぉおおぉぉっ!!」
矢央の悲痛な叫びは夜の闇に良く響きわたった。