駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
小さな手で凝りに凝った山崎の肩を揉んでいる。
穏やかな時間の流れを感じながら、時折遠くのどこかで矢央を捜す土方の怒声が聞こえたりもする。
瞼を閉じ肩に触れる温もりを堪能した。
監察という仕事柄か人一倍警戒心が強い山崎が、こうして他人に背後を許しましてや身体に触れることまで許していることに我ながら笑えた。
変わるもんやな……。
矢央を初めて見たのは、土方に呼び出せれ矢央を見張ってほしいと言われあの日からで、男に囲まれ小さな身体で強気な態度をとっているかと思えば、一人になれば声を殺して泣いていた少女。
その頼りなかった少女が、いつからか自分の部下となり傍にいる時間が増え手のかかるじゃじゃ馬娘の教育係りにもなっていった。
「…お前、しっかりしてきたな」
「え?突然なんですか?」
閉じていた瞼を持ち上げ、几帳面な山崎が片付けた書物の山をぼんやり見る。
「最初なお前が救護隊入る言われた時、ほんまはめっちゃ嫌やってん」
「………」
何の返答もないが、ギュッと力の入った手に抗議の念が受け取れたから山崎はクスッと笑う。
「監察としてなら女は色々と使えるけどな、救護となれば腕に覚えのないお前に一から押し込むとなると時間のない俺には面倒以外なにもんでものうて」
それでも役に立ちたい一心だったのだろうな、と山崎は腕を持ち上げ、肩に置かれた矢央の手に触れた。
慣れない女中の仕事もこなしながら、人使いの荒い山崎の言葉に従い手当ての方法などを必死に覚えていった。
きっとそれには、大切な者を助けたいという想いもあってなのだろう。
「山崎さん、相変わらず意地悪ですね…。たまには褒めてくれてもいいと思うんだけど」
土方にしても山崎にしても、とにかく厳しい。
時々甘やかしてくれたりもしたが、それを上回ります説教されることが多いのであまり印象に残っていない。