駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「まさかお前いるのか?惚れた男が」
矢央の様子を見ていると新選組から離れるということよりも、嫁ぐことを拒んでいるように見えた。
だからひょっとしてと聞いてみると、ぐっと唇を噛み目を泳がせる矢央がいて、土方は小さく息を吐いた。
「それはお前の傍にいる奴か?」
「…………」
黙っていては土方の思い通りにされそうで、仕方なく頷いた。
いつかは新選組から離れることも覚悟はしていた。
でもその時は自分で生きていけるように、暫く世話になりながら働き先を見付け、そして自分なりに新選組の辿る運命を見ていこうと思っていた。
「そうか。たがな、そいつと一緒になれたとしても、結果は変わらねえだろ。
そいつがいつ死ぬかも分からねえで、この時代の生き方も分からねえお前が一人で生きていけるはずがねえ」
土方なりの優しさなのだ。
傍にいてやれるなら己だって傍にいてやりたい。
だが時代の波がそれを許してはくれない。
土方達、新選組と共に過ごすことは、矢央を死に導くことになりそうで土方はこの決断を覆すつもりはなかった。
泣こうが怒ろうが、明日新選組と別れさせる。
「これは副長命令だ。間島矢央、お前は本日をもって新選組隊士を除名する。
そして隊士でない以上、女を此処へ置くわけにはいかねえ…今日で別れだ、矢央」
「…ッッ!!い、いやっ、嫌ですっ嫌っ!!土方さん、私は最後まで新選組として…土方さんっ」
これ以上話すことはないと、無理矢理立たされ部屋を追い出された。
目の前でピシャリと閉められた障子にすがりつき土方の名を呼び続ける。
「……お前のためだ。辛抱してくれ」