駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
更に戦場は悪化していった。
救護所は比較的安全な場所にあったが、四方で戦っているため完全に安全ではなく、時たま流れ弾が飛んできては冷や汗をかいた。
「よしっと!市村君、これ半分持ってくれる!」
「はいっ!」
隊士達のたのに作った握り飯を持って矢央は土方達のいる場所へ向かった。
作戦を考えているのか、土方達の周りはちかづき難い雰囲気だったが、市村と一度顔を見合わせて入って行く。
「土方さん、皆さん、握り飯しかないですが食べてください!」
声をかけると「ありがたい」と礼を言って次々に握り飯はなくなっていくが、土方は一瞬こちらを見ただけでまた話に集中してしまった。
土方のことだ、朝から何も口にしていないはずで、それだと体力が持たないだろう。
「土方さん、これ食べてください」
「いらねえ。お前等で食え」
「私達も食べました。土方さんが倒れたら誰が指示を出すんですか?近藤さんから新選組を預かってるなら、まずは体力をつけてくたさい!!」
きっと土方は怒ってるんだろう。
勝手に帰ってきた自分を怒っていてもいいが、食事はしっかりとってほしかった。
「……すまねえ」
握り飯に手が伸びてホッと安堵した。
食べてくれてことに嬉しく思いながら、また救護所に戻ろうと背を向けると土方が言う。
「矢央、旨かった」
にっと口許を緩ませ外へ出ると、騒がしさが増しているように感じた。
「市村君、何かあったの?」
「あ、それが先程数名が塀を越えて戦いに行ったみたいですが、苦戦しているのか怪我人続出みたいで…」
「塀を越えて!?」
市村の視線を辿り塀を見上げる。
この向こうでも仲間が必死に戦ってる。
「原田組長っ、決死隊は銃を構えた兵に道を塞がれ立ち往生しているようですっ!怪我人も大勢っ」
「あっちは新八がいるんだ!お前は帰ってくる仲間を助けてやれ!」
ーーーーー何を言って?
矢央の表情が見る見る強張っていく。
決死隊ってなに?
新八さんがいる?
隊士達に指示を出す原田の下へ駆け寄り、グイッと袖を引くと「なんだ?」と原田が振り返り、矢央を見て一瞬だったが確かにヤバいと顔が語った。