駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「新八さん、この塀の向こうにいるんですかっ?」
「あ、いや~」
「さっきそう言ってたじゃん!!危ないんですかっ?ねえ、新八さんは!?」
「矢央落ち着け!新八は大丈夫だ!ちゃんと帰ってくる、お前が信じねぇでどうすんだっ」
震える肩を痛い程掴まれ揺さぶられながら不安が渦巻いていく。
信じてる。
永倉は強いから、絶対に戻ってくる。
「………」
「おいっ矢央っ!!」
それでも好きな人が危険な場所にいて、身動きが取れないと聞いてしまったら黙って待っているなんて選択肢はなかった。
「市村君っ!!」
「はい…って、どわっ!!」
原田と矢央のやり取りを見ていた市村の腕を掴むと、思いっきり塀に向かって押した。
壁に顔面からぶつかり痛む鼻を押さえて唸っていた市村に更に衝撃が走った。
バタバタと走ってくる音がしたと思えば、次に背中から肩へと痛みが走り最後に頭を踏まれ身体が後方へと傾く。
「うぎっ!?」
「矢央っ待てっ!!」
市村を使い塀の上へ登った矢央が見たのは、想像以上に酷い戦場だった。
沢山の人が銃に撃たれ血を流し倒れている姿。
視界の先に銃撃を受けながらも必死に戦う仲間の姿だった。
「矢央っ馬鹿!ンなとこいたら弾が当たるだろうがっ降りてこいっ!!」
原田の声など最早聞こえなかった。
聞こえるのは銃声と砲弾の音と叫び声のみ。
バッと塀を蹴って飛び降りてしまい、矢央の姿か見えなくなると原田は舌打ちをし塀を越えようとしたが、そこへ隊士がやってきて手を貸してほしいと頼まれた。
下唇を噛み締め頭上を睨んだ原田は、倒れた市村に「このことを土方さん報告してこい」と告げ、隊士と共に去っていく。
そして塀を越えた矢央は必死に走り永倉の姿を探した。
通る道は死体ばかりで、永倉達はこの先にいるだろうと簡単に分かる。
そしてそこまでは敵を倒していたのか、矢央が危険に晒されることはなかった。
酷い有り様だった。
これが戦なのかと胸を痛めた。
訳の分からない涙が溢れた。
走る風に合わせて頬に涙が流れて痕を残していった。
「ずっ…うっっ新八さぁあぁああんっっ!!」
お願い!お願いお願いお願い!
無事でいて!!
「新八さぁぁぁあんっっ!!」