駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
永倉は隊士を引き連れ自分の腕だけを頼りに前へ進んだ。
銃撃の合間を抜けながら、敵目前まで迫るまでに大勢の仲間が銃撃の雨の下に倒れていくのを奥歯を噛み締め耐えた。
血を流し体力も使い果たし、仲間を失いながら此処まで来たのに目の前には銃を構えた敵兵が行く道を塞いでいる。
どう見たって無理だと分かった。
接近戦に持ち込めば勝てる自信はあったが、近付けてないのでは何の意味もないのだ。
「くっそ…ったれがぁっ!!」
悔しいってものではなかった。
虚しい、あれだけ腕には自信があったのにだ。
誰にも負けない自信もあった、そのために日々稽古をしてきたのだから。
数々の修羅場を仲間と共に乗り越えて此処までやってきたのに、その仲間を守れずみすみす死なせてしまった。
「くっ…引け…引けっ!」
武士が敵に背を向けるなんて恥曝しもいいとこだったが、これ以上の深入りはただ仲間を死なせるだけだと判断したのだ。
隊士に引けと指示を出した永倉は、その隊士達を守りながら自らも躯を返した。
くそっくそっくそっ!!
その間も銃声は止まない。
少し前を走っていた隊士が撃たれて倒れた。
「林田!しっかりし…ぐっ…」
息絶えている隊士を抱き締め悔しさに涙が滲む。
そこへ小さかったが、今一番聞きたい人の声が耳を掠めた。
否、まさかな。
此処にいるはずがないし、いられては困る。
「新八さぁぁぁあんっっ!!」
なのにやはり声は聞こえた。
今度はハッキリと聞こえ、顔を上げると、此方に走ってくる矢央の姿が滲んで見えた。
「や…お…なんで、なんでお前っ!?」
「新八さん!!大丈夫ですかっ、どこかっどこかやられて…」
「俺は大丈夫だ。ンなことよりお前がなんで此処にいんだよっ?」
「原田さんが新八さんが此処にいて動けないみたいなことを言ってたから」
「あの馬鹿っ」
ババンッッ!!
銃声にハッとして立ち上がると、矢央の腕を掴んで隊士を見て「すまねえ」と別れを告げて走り出す。
「新八さんっ」
「此処はもう無理だっ。剣だけじゃ悔しいが勝てねえ!!走れ、死ぬ気で走って戻るぞ!」
こいつだけは死なせたくないと必死で走る。
息を乱す矢央を振り返り何度も頑張れと声をかけた。
その時だった。
バアンッッ!!
と、また銃声がしたと同時に一気に右側に体重がかかり振り向くと、矢央が腕を押さえ倒れ込む。