駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「矢央っっ!!」
塀の目の前までやって来たというのに、矢央の右腕は血で真っ赤に染まっていた。
銃弾を受けたのだ。
「くそっ!おいっしっかりしろ、この塀を越えれば山崎に手当てしてもらえっからな!!」
「は、はい……」
腕が焼けるように熱かった。
痛みよりも熱さが増した。
「俺が担ぐから、俺の肩に乗って乗り越えろ」
矢央を持ち上げるが、撃たれた腕を持ち上げることが出来ずに塀を登ることが出来ないらしい。
「矢央頑張れっ!!」
「ううっ!くっ!」
ポタポタと永倉の顔に血が落ちてくる。
出血量が余程酷いらしく、矢央の力では自力では登れない。
しかし今の永倉は、矢央をこうして持ち上げるだけの力しか残っていなくて。
「誰かいねぇかっ!?助けてくれっ!!」
恥も捨て助けを呼ぶ。
矢央を早く助けてくれと声が枯れるまで叫ぶ。
「誰かいねぇのかよっ!?」
「ぅあっっ」
「矢央っ?」
矢央の声に顔を上げると島田が矢央を持ち上げていて、肩が軽くなる。
「島田っ!矢央を早く手当てしてやってくれ!」
「分かってますよ!ほれ市村君、早く彼女を救護所へ連れて行くんだ」
塀の向こうのやり取りを聞いた永倉は力が抜けたのかヘナヘナと座り込んでしまった。
此処まで必死に戦い、そして走ったために体力が限界だ。
身体に身に着けた装備も重く持ち上げる力すら残ってなく、自分が塀を越えることはできそうもないと諦めかけていると、
「何をしてるんですかっ永倉さん、早く手をっ」
「んあ?島田…」
新選組一の巨大で力持ちな島田でも、流石に装備を身に着けた一人の男を持ち上げられっこない。
と、思ったが、此処で死にたくもないと永倉は手を持ち上げると、その手を掴んだ島田は、もう片腕で永倉の二の腕を掴みグンッと持ち上げた。
「うをっ!?」
ま、まじかよっ!?
驚いているうちに身体は宙に浮き、塀に足をかけ登りきることができた。
こうして決死隊は多数の死者を出し散々やられ戻るはめとなる。
塀を乗り越える事が出来た永倉は力無く島田に礼を告げると、疲れた身体に鞭を打ち矢央の許へ走った。