駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「俺をむちゃくちゃだって言うなら、今からすることもお前なら受け入れてくれるよな?」
「え?」
鼻先がくっつく位の距離で見つめ合う。
「あのっ…」
「矢央、黙ってろ」
「……っ」
唇に息がかかって直ぐ、その唇に熱いものが押し当てられる。
矢央にとって初めての口付け。
かああっと身体中の熱が上がっていき、目の縁に涙が溜まっていく。
「目つぶれよ、ばーか」
「…っだって…」
口付けなんて初めてだから、どうしていいか分からないんだと訴えようにも、また口を塞がれてしまう。
「…ふっ……ん…」
身体を震わせると、最後にペロッと唇を舐められ離れていくのを目で追った。
唇しか見れない。
恥ずかしくて顔がまともに見られない。
「むちゃくちゃだ……」
「そんな俺の傍にいてぇんだろ?」
「ううっ」
「おい」
頬を両手で包まれ無理矢理視線を合わせると、永倉は頬を染める矢央を見て口許を緩めた。
こんなに愛しいものに出逢えるとは思っていなかった。
死んでも守ってみせると、朝焼けに誓う。
「この戦が終わったら、一緒に暮らすか」
二人とも生きていられる保証はどこにもない。
それでもこの言葉が力となって、どんな困難も乗り越えられるんじゃないかと思う。
「二人で静かに暮らすのも悪くねぇだろ」
「新八さんが大人しくしていられるとは思えないけどね」
「それは矢央もだろうが」
「えー、私はもう大人ですから大丈夫ですよー?」
「だったら、覚悟しとけよ?」
何を?と首を傾げれば、耳元に唇を寄せられ囁かれる。
「たんまり可愛がってやるから」
「………」
「もう大人ならいいだろ?俺、そんなに辛抱強く待てねぇから」
何となく意味を理解し、やっと治まっていた火照りがぶり返す。
ギッと睨んでやると、やけに色気のある笑みで見つめられ更に熱くて堪らなくなった。
永倉と本当に共に暮らせる日は来ないような気がする。
それはきっと永倉も同じだったが、二人を繋ぐ何かを残したかったのかもしれない。
いつか、本当にいつか共にいられたら、その時は………。