駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

ふわりと頭を撫でられた。


「矢央君の一番の仕事は、笑顔で永倉君を出迎えてあげることだ」


『お前が笑顔で待っててくれるから、生きて帰ろうと思える』


ハッと思い出した言葉に目を見開く。

慣れない環境のせいで気が動転し冷静さにかけていた自分が恥ずかしくなった。



そうだ。
私は皆が、新八さんが安心して帰ってこれる場所を守りたいと思ったんだ!



「源さん、ありがとうございます。泣いてなんていられないですね!また怒られちゃうもん」


ゴジゴシと涙を拭い、井上に笑顔を見せる。


「うん、その笑顔だよ」

「えへへっ、源さんも無事に戻ってきてくださいね!先に行ってますから」

「ああ、待っていてくれ」



井上に背を向け走り出そうとした時、砲撃を少し離れた場所にくらう。

場所は外れていたが、砂埃と小石が舞い恐怖心が芽生える。


「砲撃よーいっ! さあ早く行きなさい!」

「は、はいっ」


慌てて起き上がり背を向けた矢央をチラッと見送る井上は、物陰に潜む影が揺れたように見え目を細める。


ーーーーしまった!敵の接近に気付けなかった。


「刀を抜け!あそこに敵が潜んでいるぞ!」

「「「おおおおおおおっ!!」」」


砲撃隊以外の隊士達は刀を抜き構えたが、敵の方が行動が先だった。


狙われたのは背を向けて走って行く矢央と市村である。


銃声が聞こえ振り返った矢央の視界に、自分達の前で両腕を広げて立っている井上の後ろ姿が映った。


そして隊士達は敵三人に対し数名で斬りかかった。



「ぐっ…がはっ!!」


ユラリと井上の身体が傾いて、やっとそこで身体が動いた。


「源さんっ!!」



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